甘酒から見る生酛造りとは~甘酒では乳酸菌発酵の段階で止めている?~

先日、生酛造り(きもとづくり)の手法を取り入れた乳酸発酵甘酒というものを入手しました。近年、増えつつある乳酸発酵甘酒というジャンルは、文字通り、小さい糖を食べて乳酸を作る乳酸菌による乳酸発酵の工程を甘い甘酒に追加して甘酸っぱくした甘酒です。今まで、乳酸発酵甘酒はヨーグルトを造るように、乳酸菌を添加して造るものとばかり思っていました。この乳酸菌を添加して造るというのは、目的の製品を作るために必要な菌を事前に沢山増やし、それを添加して目的の製品を安定的に造る工程のことで、専門的に言うと『スターター』と言います。つまり、甘酒に乳酸菌を沢山培養したスターターを加えて、乳酸発酵甘酒を造っているのかなと思ったわけです。

 

しかし、生酛造りの甘酒というと、また勝手が違います。

この生酛造りという言葉は、日本酒の製造工程の酒母造り(酛造り)の一つです。日本酒にとって重要なのはアルコールを造る酵母が元気に育ち、美味しい日本酒が造れることです。そして、この酒母造りという工程が、日本酒を安定的に造るために事前に目的の菌を沢山増やしておく工程、つまり、先程説明した『スターター』を作る事に該当するのです。

 

この酵母を優先的に繁殖させる酛造りに大切な要素の一つに、乳酸による雑菌の抑制があります。そして、この乳酸という物質をどのようにして酒母に供給するかで、3つに分類することができます。乳酸を直接用いる場合を『速醸酛』、自然の乳酸菌の働きによって乳酸を得る場合を『生酛』と『山廃酛』と言います。生酛の歴史は、17世紀後半から、そして山卸酛と速醸酛の歴史は、明治期後半からだそうです。

 

自然の乳酸菌の働きによって乳酸を得る場合は『生酛』と『山廃酛』の二種類ありますが、なにが違うのでしょうか?

この『生酛』の工程の一部に『山卸(やまおろし)』という工程がありましたが、これを廃止しても目的の酒母を造れる技術が明治期後半に確立されました。山卸を廃止した生酛造り、略して『山廃酛』の誕生です。この山卸という工程は非常に長時間の重労働だったそうで、無くなった時の作業員の喜びと言ったら、現代の人でも理解できるのではないでしょうか。

 

この酛造りは2つに系統に分けるられ、速醸酛を『速醸系』、生酛と山廃酛を『生酛系』と言います。今回出会った甘酒は生酛系の技術を応用し、酵母の繁殖を防ぐ、もしくは酵母が繁殖する前に、自然の乳酸菌によって乳酸発酵させた甘酒だったのかなと考えています。

 

流石、甘酒には日本独自の技術が活かされている飲み物だとこの甘酒を飲みながらしみじみと感じ入り堪能しました。

 

※生酛の参考HP

・菊政宗酒造『生酛web

・泉橋酒造『生酛と山廃について


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